あーあ。やっぱり来なかったか。


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   近所の遊園地からは新年を告げるきれいな花火が上がった。



   A HAPPY NEW YEAR!!!



   真っ暗な闇に光る色とりどりの花火。


   この瞬間 私のガラスのハートはこなごなに砕け散った。








   
May the New Year bring you happiness!








   はぁ・・・。やっぱり来なかった・・・か。



   別れようって言ったのは私だし。



   来るわけないってわかってた。



   わかってたけど・・・。



   やっぱり痛いなぁ。













   「新年は一緒にこの公園で迎えようよ。」






   あーあ。嘘つき。



   今ごろ新しい彼女と仲良く初詣なんか行ってるんだろうな。












   「あけましておめでとうございまーす。」












   一人で呟いたその声は虚しいくらいに



   静かな公園に大きく響いた。





















   「彼氏来ないですね。」













   どのくらいの時間がたっただろう。



   公園のベンチの上。



   抱え込んだ膝に顔を埋めた私の耳が冷たくなってきた頃に。



   聞きなれた声が頭の上から降ってきた。












   「・・・・日吉?」



   「なんで疑問系なんですか。見りゃわかるでしょ。」












   顔を上げた先には部活の後輩の姿があって。



   きょとんとした私に向かって「相変わらずですね。」



   日吉は少し笑ってそう言いながら私の横に腰を下ろした。












   「それにしても・・・こないみたいですね。彼氏。」



   「うん。来ないねー・・・。」



   「待ち合わせでしょ?すっぽかされたんですか?」



   「んー・・・?もう忘れてると思うよ。別にちゃんと約束してるわけじゃなかったし。」



   「・・・は?付き合ってるんでしょ?」



   「うん。付き合って「た」よ。」



   「・・・それって・・・。」



   「別れたの。他に彼女が出来たみたい。6日前かなー・・、腕組んで歩いてるのバッタリ見ちゃってさー。」












   そう。見ちゃった。



   可愛い女の子と嬉しそうに腕を組んで歩く姿を。












    用事があるから今日は会えない。


    そんなメールの入った、その日の午後の事だった。












   「今日は会えなくてごめん。」



   夜に普通にかかってきた電話で。












   「今日、見たよ。」



   なんてとてもじゃないけど言えなくて。



   一方的に別れを告げて電話を切った。












   「じゃあ、なんでこんなトコにわざわざいるんだよ。」



   「新年が近くなったらなんだか落ち着かなくって。思わず家、飛び出して来ちゃった。バカみたいでしょ。」



   「・・・確かにバカですね。」



   「うん。自分でもそう思う。」



   「先輩。そんな・・・悩む事ないと思いますけど?」



   「・・・そうだね。」



   「まだ好きなんですか?」



   「んー・・・わかんない。」












   日吉の言葉は飾り気がなくて。



   下手に慰められたりしたら、なんだか泣いてしまいそうだったから。



   かえって今はそんな日吉の言葉が心地よかった。












   「来ないと思ってたけど・・・だから。新年になったら。来なかったら。キッパリ忘れようと思ってココにいたんだもん。」



   「・・・そのワリには未練タラタラじゃないですか。」



   「うるさいなぁ・・・私のガラスのハートは粉々なの。復活するのには少し時間がかかるんだから。」












   そう冗談っぽく呟いて、生意気な後輩の顔でもつねってやろうかと思って



   顔を上げた。



   ううん、上げるつもりだった。












   顔を上げようとした私の頬にふいに日吉の手が触れて。



   あ、日吉の手暖かいな。指長いなー・・・。



   なんて思った瞬間。



   日吉の唇が私の唇に優しく触れた。
  














   「・・・・日吉・・・?」



   「先輩。」



   「・・・・はい。」



   「知ってます?ガラスって壊れたって溶ける位に熱っすればまたくっ付くんですよ。」



   「・・・・え?」



   「すぐに俺が復活させてあげますよ。」















   あまりにも予想外の出来事に。



   日吉の言葉の意味がすぐにはピンとこなくって。



   私は何にも言葉に出来なかった。















   「先輩。」



   「・・・ハイ。」



   「去年の終わった恋を追うよりも、目の前の幸せに気づかないともったいないと思いません?」















   日吉はそう言って私の髪をくしゃっと撫でると。



   「せっかくだし。初詣でも行きましょうか。」



   少し笑ってそう言った。












   ここが外灯の下じゃなくて本当によかった。



   だって外灯の下だったら、顔が赤くなった事



   隠し様がないじゃない。












   「手繋ぎませんか?」



   「イヤー。」












   なんだか赤くなった顔を見られたくなくて。



   手を繋いだらドキドキしてるのがバレてしまいそうで。



   差し出された手を知らない顔で無視をした。












   日吉はそんな私を見て楽しそうに口の端を少し上げて微笑むと。



   私の手を強制的に。



   しっかり握って歩き出した。















   「・・・断った意味ないじゃない。」



   「何、言ってるんですか。そう嫌でもないくせに。」



   「・・・なんか日吉ってエラそうだよね。」



   「今頃気づいたんですか?」



   「・・・・・。」



   「まあ、いいじゃないですか。俺、先輩と新年迎えようと思って柄にもなく探し回ったんですよ。」



   「嘘・・・。」



   「嘘ついてどうするんですか。ま、0時には間に合いませんでしたけどね。」



   「・・・うん。」



   「来年は間に合わせるから。」



   「・・・うん。」



   「俺は約束、守りますよ?」















   真っ暗な中に立ち上る自分の白い息と空の星。



   隣に立つ、後輩らしくない後輩と。その暖かさに。



   なんだか妙に感動して。



   涙が出そうになった。












   涙が出そうになって。



   そんな調子のいい自分に少し呆れた。












   ねえ、でも。



   せっかく迎えた新年だから。



   こんな調子のいい私のお願いも聞いてもらえるかな。












   ねえ、神様。



   これからどうなるかなんてわからないけど。



   これからの幸せ、願ったっていいですか?















   「先輩、何お願いするんですか?」



   「・・・宝くじがあたりますようにとか。」



   「・・・・カンベンして下さい。(俺の想いはどうなる!)」



   「・・・・冗談です。」
















   May the New Year bring you happiness!





   新たな年がアナタの頭上にも幸福の星を降らせることを願って・・・・。










   END







   ・・・あとがき・・・

   新年あけましておめでとうございます。
   皆様にとって幸せいっぱいの年になる事をお祈りして・・・・vvv





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この話しめちゃくちゃ大好きなんですvv
綾音様の小説は何度見ても心が温まるし、泣ける。すばらしいです!
最近禁断症状出てます…(ぇ)